九州ラーメンの特徴を、キーワード一つで表現してみると、
博多・長浜 : 紅しょうが
久留米 : のり
熊本 : 焦がしニンニク
鹿児島 : 色白麺
大半の長浜・博多のラーメン店では、紅しょうがを入れた器が客席に置かれていて、客が自分でトッピングするようになっています。中には、はじめから、ラーメンの上に、紅しょうがが乗せられている店もあります。
<「想夫恋の焼きそばとラード『食べて悪い油 食べてもよい油』を考える」はこちら>
<「番外編:皿うどんと味噌ラーメン」はこちら>
<「番外編:長崎ちゃんぽん リンガーハットの功績」はこちら>
「 横浜ラーメン博物館 」のホームページには、次の様に記載されています。
- 豚骨ラーメンの名脇役紅生姜は、彩を考えて入れるようになった。-
紅生姜を初めてラーメンに入れたのは福岡にある「のんき屋」さんというお店です。
店主大石峰生さんはラーメンを見てふと思いました。ラーメンを上から見ると白いとんこつスープに麺。黒い海苔に茶色がかった肌色のチャーシュー、黒いキクラゲ。緑のネギがあるとはいえ、白と黒の世界に寂しさを感じた大石さんは、「そうだ彩りがないからだ」と思い、紅生姜を入れてみたらどうだろうと考えました。
これが入れてみると、赤い彩りの美しさはもちろんのこと、紅生姜の独特の味と刺激がとんこつスープと合い、好評を呼んだのです。
この記述のもとになったのは、九州ラーメン研究の第一人者、原達郎氏の著書「 九州ラーメン物語 」と思われますが、同書には、さらに次の記載があります。
もともと横浜などの中華料理店のチャーシューは、外側を食紅で色付けした焼豚。その影響からか、九州のラーメン店のなかにはシナチクを赤く食紅で染めた店もあった。
しかし紅生姜を添えるというアイデアは大石さんの発案で生まれたもので、赤い彩りの美しさはもちろんのこと、紅生姜独特の味と刺激が豚骨スープの脂にまとわれた舌に刺激を与えるので、好評を呼んだ。
しかし一方、同書別稿の「 海苔は久留米ラーメン系の印 」に次の様な記載もあります。
九州のラーメン店で初めて海苔を使ったのは北九州市小倉北区[ 来々軒 ]の杉野勝見さんである。杉野さんは昭和二十二年久留米で[ 三九 ]を開店、当初は、乾燥タケノコをスープで煮て短冊に切り、紅で色付けして乗せていた。これが紅ショウガの原型、との指摘もある。
さて、この紅しょうが、ご承知のとおり、塊状の根しょうがを塩で下漬けしたあと、梅干しを漬けた後に残る漬け汁で数日間漬けこみ、取り出して細切りにしたものです。
しかし、現在、国内で消費されている紅しょうがは、台湾など東南アジアからの輸入品を国内で加工したものか完成品が大半を占めていると言われています。
工業的に製造する場合は、あらかじめ細切りにしておいたショウガを、赤系の食用色素を混ぜた梅酢の調味液に漬け込む製法で作られます。
そして、その赤色の食用色素が、ニューコクシン(New Coccine, Ponceau 4R)という合成着色料で、通称『 赤色102号 』(あかいろひゃくにごう)と呼ばれているものです。
合成着色料は、タール色素ともいわれ、石油製品を原料に化学合成して作られたものです。発ガン性や催奇形性の疑いなど、安全性に問題があるといわれているものです。
このニューコクシンも、このタール系色素の一つ。主に工業製品の着色用途や食品添加物として使用されるもので、旧厚生省は天然に存在しない添加物に分類しています。
食品用途には、洋菓子やソーセージ、漬物への使用が多く、その危険性ゆえに、アメリカ、カナダ、ベルギーなどでは食品への使用が禁止されています。またイギリスでも、同国の食品基準庁が、子どもはこの合成着色料を避けるべきと勧告し、現在は使われなくなっているものです。
さて、このニューコクシンを使って工業的に作られた「 紅しょうが 」が普及し始めたのは、いつ頃からでしょうか。
正確にはわかりませんが、昭和40年代、赤いウインナーと同様、食品産業の工業化の進展の時期と考えられます。安価で、手軽に彩りを添えることができる、瞬く間に、市場で広まっていったのです。
大手の牛丼チェーなどで大量に消費される紅しょうがは、ほぼ『 赤色102号 』が使われていると考えてよいでしょう。
日本では、いまだ規制されることもなく使われているのです。
真っ赤な紅しょうが口にすることは、先ずありません。「彩り」といわれても、あの過激と言える赤は、どう考えても不自然に感じます。
紅しょうがは、根ものです。どのような土壌で栽培されたかもわからない海外からの輸入品と、危険な『 赤色102号 』が使われているかもしれない…。
近年、食に対する意識は、かつてないほど高まりを見せています。
原料、産地、添加物…、メディアも様々に取り上げます。
そのような中、今も博多のラーメン店などでは、時折、豚骨スープが真っ赤に染まるほど、紅しょうがを入れて食べる人を見かけます。一種の食習慣でしょう。
そして、親が食べれば、子供も食べるようになります。長い時間をかけて、『 赤色102号 』のような危険物質が身体に蓄積されていったとしたら…。
そのようなリスクを子供に負わせてはいけない、安全なものを子供に食べさせる、それが親のつとめです。
想夫恋のお店にも、紅しょうが置いてありますが、食べることは一切ありません。
想夫恋の紅しょうがの品質を疑ってのことではありません。
理由は、一つだけです。
想夫恋の焼きそばだけが食べたい、その味をつぶさに感じたいからです。
想夫恋焼は、一期一会の一品料理と思っています。
そのときの出来、「焼き」と「焦がし」の香ばしさ、モヤシの甘み、豚肉の肉汁と特製ソース、そして食材のハーモニー。それらを一切もらさず感じ取る。
そこに、紅しょうがは全くもって不要なのです。