久しぶりに、『 亡国のイージス 』を読んだ。
『 亡国のイージス 』は、1999年、講談社から刊行された長編小説である。
在日米軍基地で発生した未曾有の大惨事。
最新のシステム護衛艦『 いそかぜ 』は、真相をめぐる国家間の策謀にまきこまれ暴走を始める。
ついに守るべき国の形を見失った “ 楯 (イージス) ” が、日本に恐怖をもたらす。
日本推理作家協会賞を含む三賞を受賞した福井晴敏氏のミリオンセラーだ。
2005年、本作品を原作に映画化されたが、映画の方はもう一つ。
この長編を、2時間ほどの映画にするのは難しい。
小説は小説、映画は映画、別物だ。
やはり、原作の方が遙かに面白い。
刊行から20数年を経て、今なお、否、今だからこそ、作品中の言葉が胸に突き刺さる。
■保身にばかり長けた政治家ではなく、一人の人間として自らを誇れる人物にこの国の舵を取ってもらいたいと願うのは、過分な望みなのだろうか。
そうした人たちがその存在をもって範を垂れ、すべての人に美徳を示すことは夢なのだろうか。
■誇り高い優れた政治家、自立心と責任感に溢れた国民。
そんなものは存在しないんだ。
■政府という、本来国民に奉仕すべき存在が、自身の組織維持のためには国民にババを押しつけて恥じない集団であること。
半世紀以上かけても民主主義を使いこなせなかった国民の無節操が、そうした風潮を助長してこの国を閉塞の闇に追いやっていること。
■その職人気質に裏打ちされた技術力と、長年培ってきた奉公という美徳の発露によって、日本は戦後、驚くべき速度で復興を為し遂げた。
が、奉公という美徳の裏側には、組織の中に埋没する人間性、その結果として生じる無思考、無責任、無節操という影があることを、我々は無視しすぎてきたのではなかったか。
■上意下達の徹底は強固なチームワークと経営体質を企業に与えたが、上に対して口を閉ざすのを当たり前にしすぎた結果は、参政意欲のない、主権意識のきわめて希薄な国民たちを生み出すことにもなった。
そうして…… 個人としては考えることも責任を取ることもできなくなった国民が、経済という制御の難しい化け物と場当たり主義でつきあい続けた結果が、バブルの災厄を招来した。
■重要なのは、国民一人一人が自分で考え、行動し、その結果については責任を持つこと。
それを「 潔い」とする価値観を、社会全体に敷衍させ、集団のカラーとして打ち出していった時、日本人は初めて己のありようを世界に示し得るのではないだろうか。
■誰も責任を取らない平和論や、理想論に基づいた合理的経済理論では現在の閉塞を打ち破ることはできない。…… 現状では、イージス艦を始めとする自衛隊装備は防御する国家を失ってしまっている。亡国の楯だ。
それは国民も、我々自身も望むものではない。必要なのは国防の楯であり、守るべき国の形そのものであるはずだ。
■国家の一員という自覚がなく、自分がその立場にあったらという想定を一顧だにせずに、バブル の責任を金融業界に押しつけて恥じない無節操。
再建のための公的資金導入さえ、感情論に流されて床屋談義のレベルで潰してしまう国民たち。
■憲法が言うように戦争が放棄できるものなら、地球はとっくの昔にパラダイスになってる。できないから世界は悶え苦しんでいるんだ。
戦争はしません、武力は持ちませんって唱えていれば、自分たちは永遠に安全だと思ってる。
その痴呆者の傲慢が、我々を非公開の闇に押し込め、自衛隊そのものも役立たずの張り子の虎にしてるんだ……!
■東西冷戦、民族紛争。果てることのない争いを横目にしながら、
戦争を放棄できると信じて疑わなかった日本人の傲慢。その結晶が、自衛隊という組織のあり方だ。
■守るべき国の形も見えず、いまだ共通した歴史認識さえ持ちえず、責任回避の論法だけが人を動かす。
国家としての顔を持たない国にあって、国防の楯とは笑止。我らは亡国の楯。偽りの平和に侵された民に、真実を告げる者。
■思えばそうして貸借関係を成立させ、談合で物事を決めてゆくのはそもそも日本社会の特質であり、皆が不利益と感じるものに対しては、恥じることなく村八分的な態度を取って黙殺するのも、日本人の特性とでも言うべきものだった。
■過半数の同意を得なければなにもできない民主主義の構造は、政治の本質を国民の意志ではなく、 議会工作に置く歪みを必然的に生じさせる。
日本においては、伝統的に培ってきた談合体質が派閥間の利害調整ばかりを巧妙化させ、政策が票田たる企業体のためだけのものになった結果、党や派閥の利益に直接結びつかない外交や防衛問題については、無難で最大公約数的な、その場しのぎの政策 しか打ち出せなくなっていったという節がある。
■国民を尻目に贅の限りを尽くした生活をしておきながら、国が傾けばあっさり身売りしようとした連中や、それを金で手なずけた連中は残らずさらし首にしたいってだけでね。
<「 ー ふと想起される言葉 vol. 2 ー 」はこちら>
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