コロナ禍に思う自衛隊災害派遣『 公共性・緊急性・非代替性 』の3原則 / ふと想起される言葉 vol. 85

 

 

2020年4月以降、自衛隊は、新型コロナウイルス感染症に対する市中感染拡大防止のため、都道府県知事からの要請を受けて、これまでに30以上の都道府県に災害派遣を実施した。

 

自衛隊の災害派遣は「公共の秩序の維持」としての活動の一環であり、「災害により人命または財産に損害が及ぶ場合にこれらを保護するための応急的な救援活動」である。

 

 

  

自衛隊が災害派遣で動くにあたり根拠となる関係法令は、「災害対策基本法」「大規模地震対策特別措置法」「原子力災害対策特別措置法」と、それを受けての「自衛隊法83条」である。

 

そして派遣の種類には「災害派遣」「地震防災派遣」「原子力災害派遣」の3つがある。

 

一つ目の「災害派遣」は自衛隊法第83条に基づくもので、都道府県知事などの要請を受け、防衛大臣またはその指定する者が部隊等を派遣する「要請による派遣」と、要請を待ついとまがないことが認められる場合に部隊等を派遣する「自主派遣」があり、自然災害以外の急患輸送や行方不明者捜索、山林火災、渇水時の給水支援、そして医療支援なども含まれる。

 

この災害派遣では、まず市区町村長などが、「要請権者」と呼ばれる都道府県知事や海上保安庁長官(ほかには管区海上保安本部長や空港事務所長)などに対して「自衛隊へ派遣要請を出してほしい」という要求を出す。

 

これを受け、都道府県知事などの要請権者が「被要請権者」である防衛大臣またはその指定するものすなわち陸上総隊司令官や方面総監、師団長などに派遣要請を行う。

 

「要請があり、事態やむを得ないと認める場合」において防衛省・自衛隊は部隊を派遣することとなる。これが「要請に基づく派遣」であり、災害派遣の原則だ。

 

 

そして、「事態やむを得ないと認める場合」の基準は「公共性」「緊急性」「非代替性」の3つの原則から判断することになってる。

 

「 公共性 」とは、公共の秩序を維持するという観点において妥当性があるか否か。

「 緊急性  」とは、状況的に差し迫った必要性があるか。

「 非代替性 」とは、自衛隊の部隊を派遣する以外、ほかに適切な手段はないのか。

 

この3点は、すなわち「自衛隊でないと対処できない」か否かという判断の基準になる。

 

コロナ禍において行われた災害派遣は、この「非代替性」の点から言えば、甚だ疑問に思う。

 

ー 福岡県嘉麻市の産業廃棄物処理場火災と災害派遣 ー

 

 

この話は、ある関係者から聞いた話だ。

 

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2017年5月29日、福岡県嘉麻市の産業廃棄物中間処理場で火災が発生した。

 

同施設の1日の処理量の14日分に相当する3,770m3が法定上限となっていたが、火災発生時には、その5倍以上の約2万m3のごみが施設内に野積みされていたという。

 

飯塚地区消防本部が消火活動を行ったが火は収まらず、県内の各消防本部からも消防職員、消防車、消防機材などが出動し、不休の消火活動が続けたが消火は難航。

 

周辺地域には異臭を伴う煙が漂い、喉や目の痛み、体調不良を訴える住民が出始めた。

 

やがて、自衛隊の災害派遣を求める声が挙がりはじめ、その声に押された市長は、県に対し派遣の要求を行ったのである。

 

これを聞いた県議会においても、知事に災害派遣を求める声が出始めた。

 

そうした中、自民党県議団最高顧問の吉原太郎県議(故人)は、

 

あの方々は、国を護るためにおんしゃーとでしょうが、何で私有地内のゴミ掃除やらさせんといかんですか ” と。

 

この一言で、県議会内の自衛隊派遣の声は収まり、やがて6月23日の鎮火を迎える。 

 

 

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遅々として進まないコロナウィルスワクチンの接種。

 

業を煮やした菅総理は、4月27日、東京と大阪に国が大規模接種センター開設し、自衛隊が設置と運営にあたるよう岸防衛大臣に指示した。

 

 

そして防衛省は、会場運営などのため、民間3事業者と計36億8千万円で契約を結んだ。菅義偉首相の「鶴の一声」で決まった想定外の業務。

 

岸信夫防衛相が5月11日の閣議後会見で、契約金額などを明らかにした。

 

自衛隊の医官、看護官が中核を担う大規模接種センターは、東京と大阪で24日に開設する。東京会場は「日本旅行」(契約額19億4899万円)、大阪会場は「東武トップツアーズ」(同9億6654万円)に会場運営などを緊急随意契約で委託。

 

民間看護師200人の確保は、人材派遣会社「キャリア」(同7億6377万円)と入札で契約した。

 

民間に委託したのは「1日1万人」が目標とも言われる大規模接種のノウハウが自衛隊にないためだ。

 

 

そもそも、何故、自衛隊なのか。

どういう根拠に基づいて自衛隊にやらせるのか。

 

大規模接種センターなど無くたって、医師会が協力すれば簡単にできることではないのか。

 

無理だというのなら、厚生労働省にやらせるのが筋ではないのか。

あまりに法理を逸脱している。

 

そして、この点に対して、メディアもまったく問題視していない。

 

高齢者へのワクチン接種を7月末までに完了させるとか、1日100万回接種とか、全く具体的な計画のない放言のつじつま合わせのために、自衛隊を使うのか。

 

かてて加えて、河野ワクチン担当大臣の「1日1万人接種は自衛隊次第」の発言など言語道断、無責任極まりない。

 

 

自衛隊は、『 便利屋 』ではない。

 

これほどまでにいい加減で、無知、無能、無策の総理大臣をこれまで見たことがない。

 

 

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